現代社会は生命を感じることが希薄になっているのではないか。ホームセンターは殺虫剤で溢れており、か弱い生命を殺すことが当然となっている。また、ある動物虐待の犯罪者は若く、抵抗できない動物を痛めつけることに快感を感じていた。生命を感じることに鈍感になった人々が増える度に、社会は冷酷に乾いていき、平気で命を奪うホロコーストが再到来するかもしれない。それは人間よりも人格を持ち始めたAIなどの半生命体に向けられているだろう。
 そこで、石ころに目を向けた。石ころは生命の本質とかけ離れており、生命を感じることができない物体である。しかし、石ころは生命の死骸が風化してできた土の原料であり、間接的には生命だったのである。彫刻家のイサム・ノグチは石の声を聞き、一切の無駄がない存在感のある石の彫刻作品を作り上げた。私は石の生命性を発掘させることに生命性を生じさせるヒントがあると思い、音楽を用いて発掘することを試みた。
 作中では、石灰岩をぶつけた音を12 音階に分け、キーボード、ギター、ボーカロイドといった必要最小限の楽器を使って引き出すことを試みている。自身が持っているあらゆる石同士をぶつけて、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シの音階になるように音を作って音楽を奏で、石が持つ生命の息吹に、ギターやキーボードなど少しばかりの楽器の音色を加えることで、イサム・ノグチの最小限で石に手を加えるという行為に近づくと考えて制作した。また、映像も派手な映像というより、石の様々な命を感じさせるようなアニメーション、実写を加えることで短い時間で、石に生命を感じさせるようにした。

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