生物は絶滅と誕生を繰り返し、収斂進化の果てに編み出した身体の形状によって厳しい環境に適応した。ムカデは、環境に対して自然と身体にかかる力を進行させるように、知能に頼らない陰的制御を行っている。対して人間はどうだろうか。日常的に大勢の人が満員電車に乗り、オフィスや学校などで迫り来る未曾有の事態にも適応していく。進化の過程で人間は身体ではなく、精神の形状を変えることで適応しているのではないか。人間も同じような制御が精神に備わっていると考えた。未曾有の事態に対応する人間の陰的制御を観察したい。
 作中では、遅刻寸前で、道端を走って生き急ぐ行為の中に、絶滅と誕生を繰り返し、環境に適応する生物の進化と同等の適応力があるのか観測する。道の起伏、階段、障害物に対して人間は二本足のみを使って、どこまで精神を変容させることができるのだろうか。
 揺れ動く人の心が行きつく先は、アイデンティティの構築という適応性の最終形態なのかもしれない。アイデンティティは変容し、再構築を繰り返し、生物の進化の果てに導き出した形状と相似し、両者の変化は続いていく。

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