
モノと人の関係性は大量消費社会により、廃棄と生成を急速に繰り返し、希薄になっているように感じる。その際に、モノを通じて思い出す感覚も写真ベースとなり、モノが持つ特有の空気感を味わうこともできなくなる。モノが実体として人々に与える感情的な価値が忘れられているのではないか。
私は、久しぶりに実家の倉庫で出現した携帯用ゲーム機機「ニンテンドーDS」と対面し、小学生時代の記憶を忘れていた。そこから遡り、父が収録した小学生時代の映像を拝見し、性格がかけ離れていながら自己との接続性を感じた。この経験から、モノには過去を取り戻し、現在の自己像を観察させる重要な役割を持っていることに着目した。
本作では、「ニンテンドーDS」を妖怪"デスムシ"として自律的に歩行をさせ、対話を重ねながら、過去の自分との相違を確かめていく。デスムシは悲しむ過去の自分の幻影を見せ、泣き止む方法を思い出させたり、記憶を忘れまいと握手をするなど、過去を見つめさせて今の自分を取り戻す手助けをする。機能を終えてしまったモノが新たな役割を宿し、妖怪として社会に溶け込む姿を表明したい。